鉄鋼材料と熱処理条件 5章

5.結晶粒度と諸特性との関係

鉄鋼材料は結晶の集合体であり、この結晶同士の境界面は結晶粒界と呼ばれ、それに囲まれたものが結晶粒である。この結晶粒の大きさを結晶粒度といい、この大きさが鉄鋼材料の諸特性を大きく左右する。熱処理は加熱と冷却の組み合わせであり、このときの加熱条件や冷却条件が結晶粒度に多大な影響を及ぼす。例えば、焼なましや焼入れ時の加熱温度が必要以上に高かったり、加熱時間が長かったりすると、結晶粒は粗大化して脆くなってしまう。
鉄鋼材料の結晶粒にはフェライト結晶粒とオーステナイト結晶粒があり、これらの結晶粒度試験方法がそれぞれJIS G 0552およびJIS G 0551に規定されている。これらのJIS規格では、結晶粒度(G)と断面積1mm2当たりの結晶粒の数(m)との関係式はm=8×2Gが成り立つとしている。
このJIS規格のフェライト結晶粒度試験方法は、炭素含有量0.25%以下の鋼を適用範囲としており、オーステナイト温度までは昇温していないときの焼なまし状態の結晶粒度を判定する。また、オーステナイト結晶粒度試験方法は、オーステナイト化温度以上の熱処理(焼入れ、焼ならし、浸炭焼入れなど)またはオーステナイト系ステンレス鋼などの固溶化熱処理を行ったときの結晶粒度を判定するもので、粒度番号が5以上の鋼を細粒鋼、5未満の鋼を粗粒鋼としている。
表1.4に結晶粒度と諸特性の関係を示す。一部の特性を除いて細粒鋼のほうが良好な特性を持っており、とくに衝撃値などじん性に関しては絶対的に有利である。この結晶粒の粗大化にともなうじん性の低下は、深絞り加工など塑性加工を行う際にはとくに注意すべき問題である。すなわち、中間焼なましにおいて過剰焼なまし(加熱温度が正規温度よりも高温)を施したため、十分に軟化しているにもかかわらず塑性加工によって亀裂を生じる例もある。また、すべての鋼において硬さが同一であっても焼入温度が高くなるほど衝撃値が低下することは、結晶粒の粗大化も一因になっているのである。
さらに、大形機械部品の焼入温度は小物部品の場合よりも若干高めにしたほうが十分な焼入硬さを得るためには有利であるが、これは結晶粒が大きくなると焼入性が向上することが起因しているのである。また、アルミキルド鋼は焼入硬化しにくいといわれるが、これは結晶粒微細化元素であるアルミニウムが結晶粒の成長を抑制するためである。
 

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