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高周波焼入れ

高周波熱処理

06 技術情報・・・高周波熱処理

2.5.6高周波熱処理により加工品に生ずる欠陥と防止方法

(1)主な欠陥

(ⅰ)焼割れ:高周波焼入れは、表層に圧縮残留応力が生じるので焼割れは起こりにくい。しかし形状的に加熱および冷却の不均一等により熱応力、変体応力のアンバランスが生じたり、過熱されて結晶粒が粗大化すると割れることがある。

(ⅱ)予熱割れ:前処理不備(網状セメンタイトが残留した組織等)あるいは鋳鋼品、鋳鉄品の応力除去不足がある場合、高周波加熱後(急速加熱)に割れることがある。

(ⅲ)焼戻割れ:高硬さに焼入れされたものを、高周波加熱を用いて急速焼戻しするときに内部応力バランスが不安定になり割れることがある。

(ⅳ)置割れ:焼戻しをしないで長時間放置する場合、残留オーステナイトがマルテンサイト化して割れることがある。

(ⅴ)矯正割れ:長尺品や薄肉部品の矯正時に過矯正(加圧大)により割れることがある。

(ⅵ)硬さむら:冷却不均一により軟点や縞模様(バーバーズマーク)などが発生することがある。

(ⅶ)変形:焼入れ時には、加熱・冷却により熱変形・変態変形が必ず生じるため、なんらかの変形(形状・寸法変化)は発生する。また、長尺物の焼き入れで支持方法が不適な場合や、母材の内部応力が残っている場合も変形が予想外に発生することがある。

(ⅷ)硬化層深さの不均一:加熱・冷却条件のばらつき、母材の前処理(組織)不均一、偏折等の組成のばらつきにより発生することがある。

(ⅸ)組織異常:部分的オーバーヒート組織、表面脱炭組織、鋳物の異常組織等が発生することがある

(ⅹ)その他、打痕、電触、溶損、錆び、酸化及び冷却剤の被膜が発生することがある。

(2)欠陥対策

1)基本的な考え方

図面仕様に適合する焼入標準を選定して焼入方案を作成し、もし過去の実績データや経験からトラブルが予想される場合は、対策を事前検討した上で試作試験を行い、焼入れの可否をデータで確認することが重要である。その過程で、もしトラブルが発生すれば、まずは、熱処理条件を再検討し場合によっては、前後工程の理解と協力も得て、加工材料の種類や形状、仕様の再検討も行い、充分な工程能力のもとに量産化できる熱処理条件を探索する必要がある。試作による試作錯誤の余裕が乏しい単品処理の場合は、過去の実績データ(技術標準)からトラブルを予知しながら焼入方案書を作成し、実作業中にも、必要に応じて方案書の修正を行いつつ、より確実な焼入方案書に仕上げて実処理に適用することが必要である。すなわち、トラブルを未然に防ぐには、理論的な考察・検証も重要であるが、経験の積み重ねによるノウハウやデータの蓄積も極めて重要である。

2)主な焼割れ対策

(a)加工材料の隅肉部、端部は渦電流によりオーバーヒートしやすいので、面取りを大きくするか、余肉等を均等につける。

(b)孔やキー溝はオーバーヒートしやすいので、当て金を埋め込むか、面取りを大きくする。

(c)表面粗さが大きい場合や鋳鍛造品での黒皮残りは平滑に加工仕上げする。

(d)脱炭や部分溶解は、焼きむらや割れの原因になるので、必ず除去する。

(引用文献)

1) 東部金属熱処理工業組合・技術委員会編集/吉成尚旻奢:金属熱処理技能士試験・受験対策テキスト/第4版、(2003)、p.106~115.

2) (社)日本熱処理技術協会/日本金属熱処理工業会編集/川嵜一博著:「熱処理技術入門」”4.1高周波熱処理作業”、(1997)、p.272~291。(大河出版)