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高周波焼入れ

高周波熱処理

04 技術情報・・・高周波熱処理

2.5.4高周波熱処理作業

(1)加工材料(被処理物)の高周波焼入仕様に関する主な検討項目

JIS規格や当事者間の協議により、主に次の各項目について検討や取り決めが必要である。

1) 材質

高周波焼入れされる加工材料の種類は、表2.5-4に示すように、JIS B 6912 (2002)「鉄鋼の高周波焼入焼戻し加工」に規定されており、機械構造用炭素鋼・合金鋼、特殊用途鋼、鋳鍛造品があり、近年、機会構造部品用焼結材料にも適用が拡大されている。

2) 形状

まず、加熱コイルが設計可能な形状であることが基本で、均一加熱を目指すには、段付部、溝部か昇温不足になりやすく、突起部は過熱しやすいので注意が必要である。

3) 前組織

均一な組織・硬さを目指すには、合金元素の強い偏析、明瞭なフェライトバンド、大きな球状セメンタイトは避ける必要がある。

4) 焼入れ硬さ

硬化範囲、表面硬さ、硬さ推移曲線(硬化層深さ)等を、測定方法(位置、装置、)条件)を明確にして設定する。表2.5-5に、炭素量で区分された有効硬化層の限界硬さの規定値を示す。硬化層深さには、有効硬化層深さ(焼入れのまま、または焼入れ焼戻しした硬化層の表面から表2.5-5の限界硬さの位置までの距離)と全硬化層深さ(硬化層の表面から硬化層と生地の物理的または化学的性質の差異が、もはや区別できない位置までの距離)がある。

5) 焼入れ組織

金属組織と結晶粒度について、観察測定方法を明確にして設定する。

6) 寸法(焼入変形)

変形の種類(径、長さ、傾斜等)、測定場所、測定方法、測定値精度等を設定する。

7) 焼き割れ

化学成分や加工材料形状等から焼きわれの危険性が高そうな場合は、過熱を避けたり、必要硬さが得られる範囲で冷却速度を遅くするなど、加熱条件の慎重な設定と管理が必要である。割れ検査には、磁粉探傷法、染色探傷法が用いられるが、焼入れ前にすでに割れ(きず)があると焼きわれに直結するので、焼入れ前の割れ(傷)検査も重要である。

8) 後加工

主に焼戻しと変形矯正加工がある。

焼戻しは、一般に加熱炉を用いて、100~200℃で、総加熱時間1~4h程度加熱して行われる。図2.5-12に、炭素量と硬さの関係におよぼす炉加熱での焼戻温度の影響を示す。焼戻しの主な目的は次の通りである。

(a) 硬さ調整:指定硬さにすることを目的とし、焼戻温度により金属組織も変化する。

(b) 内部応力減少・除去:焼入れにより硬化層近傍の非硬化層に生じる引張残留応力や、ひずみ取り加工により生じる引張残留応力を減少または除去することを目的とする。ただ、同時に疲れ強さの向上等に有効な圧縮残留応力も減少するし、変形が生じる場合もあるので、焼戻しの要否、必要な場合の焼戻温度、時間の設定は慎重に行う必要がある。

(c) 後加工対象:後加工に研削工程がある場合には、研磨割れを防止するため、硬さの許容範囲内で焼戻しを行う。また後加工で過重あるいは複雑な機械加工(たとえばボス加工、内径加工、内径のキー溝加工等)を行う場合には、加工割れと同時に異常な変形を防止するたねにも焼戻しするのが望ましい。

(d) 磨耗対策:180℃前後の焼戻しを行うと弾性限が高くなり、耐摩耗性を向上させる例があるが加工材料の種類(材質)、焼入れ方法、使用目的により慎重に要否を検討しなければならない

(e) じん性回復:焼入れ材のままでは脆いため、じん性を回復するために焼戻しを行うことがあるが、使用目的や負荷状態等を考慮して焼戻条件を選定する必要がある。なお、インライン化、短時間化を主目的にして高周波または低周波焼戻しも行われる。変形矯正加工は、焼入変形をさらに低減されるために、油圧プレスやロール矯正機等を用いて塑性加工して行う。加工後には、必要に応じて応力除去焼なましを行うことがある。

(2)高周波焼入装置に関する主な検討項目

1) 高周波電源

表2.5-6に、目的の焼入れ硬化層深さを得るたねの加工材料の寸法(直径)に対する高周波電源の種類と適正周波数の目安を示す。表面加熱で加工材料の寸法が小さいか必要な硬化層深さが浅い場合、全体加熱で加工材料の寸法が小さい場合の周波数は高めが適当で、逆に、加工材料寸法が大きいか必要な硬化層深さが深い場合、周波数は低めが適当である。

高周波焼戻しの場合は、表皮効果による表面焼戻しの影響を低減するために低めの周波数が適当である。

2) 焼入方法

主に一発焼入れと移動焼入れがある。

図2.5-13は、一発焼入れの概念図で、加熱コイルと加工材料の相対位置は一定で、焼きいれが必要な場所全体が一気に加熱され、軸類では均一加熱のために加工材料を回転させることが多い。冷却は、冷却ジャケットから水または焼入れ冷却剤を噴射して行われ、加熱コイルと冷却ジャケット一体型では加熱と同じ位置で、単独型では加熱後、所定の位置に素早く移動して行われる。

図2.5-14は。移動焼入れの概念図で、加熱コイルまたは加工材料が移動させながら、焼入れが必要な場所が連続的に加熱される。冷却は一体型または単独型のジャケット(縦移動では加熱コイルの下に、横移動では後方に位置)により連続的に行われ、縦型の場合は、浸漬冷却も可能である。

加工材料の設置方法が縦型か横型かは、加工材料の形状や寸法、さらに変形低減を考慮して選択する必要があり、必要に応じて、支持ジクを設置することがある。

焼入部位のβ=長さ/直径の数値を元に、焼入れ方法選択の目安は次のように示される。

(a) β>3の場合、移動焼入れ

(b) 3≧β>1の場合、一発焼入れまたは移動焼入れ

(c) β≦1の場合、一発焼入れ
なお、(b)(c)において一発焼入れを選定した場合でも、次の場合は移動焼入れも再度考慮する必要がある。

・ 硬化層深さが3mm以下の箇所を有する場合。
・ 肉厚が薄い場合(15mm以下、または肉厚/直径が0.1以下)もしくは変形(焼入れ部以外も含む)が問題となる場合。
・ 軸状部品のように長尺で、装脱着や操作の点で移動焼入れが有利な場合。
・ 部品の端面に逃げ(非硬化部)を作る場合、または焼入れ範囲に比較的許容値が大きい場合。

3)温度測定

主に放射温度計や熱電対を用いる。ただ、加熱コイルや冷却ジャケットが加工材料に近く、回転や移動させる場合、測定は容易ではないため、電力・電流、電圧や周波数(電流浸透深さ相当)、表面電力密度等の代用情報を参考に条件設定することがある。

4)その他の検討項目

装置の処理能力、未焼入れ品や焼入品の保管場所(区別)、加熱コイルや冷却ジャケット・ジグ類の取替え方法、焼入れ冷却剤の管理方法(システム)、電波漏洩対策(周波数、出力によって監督官庁に届出が必要)等の検討が必要である。

(3)焼入れ冷却剤

1) 焼入冷却剤の選定

高周波焼入れの焼入れ冷却には、加工材料の種類や形状、要求仕様により、水または水溶性冷却剤が使用される。水溶性冷却剤は、たとえば濃度調整により冷却速度を変えることができることから、加工材料の種類や形状の多様化、高硬度化、高深度化に対応するため、あるいは焼き割れ防止のためによくしようされる。表2.5-7に選定条件の目安を示す。

水溶性冷却剤には、皮膜生成によりMs点以下の冷却温度を遅くする高分子化合物系のポリアルキレングリコール(PAG)ポリエチレングリコール(PEG),ポリビニルアルコール(PVA)等が用いられ、さらに冷却速度を遅くする場合は焼入油が用いられる。

図2.5-15に水とPVA系焼入冷却剤を廃液処理する場合には、環境面で配慮が必須である。

2) 焼入冷却剤の管理

焼入冷却剤を使用する場合には、冷却剤の温度(液温)、濃度、噴射圧力や流量等を管理する必要がある。

温度は20~40℃が好ましく、これより高温の場合は冷却不足による不完全焼入れや硬化層深さ不足が、また低音の場合は焼き割れが懸念される。したがって、季節や現場環境の影響も含めて、必要に応じて、冷却能の適正管理のために積極的な温度調整を行うことがある。
適正濃度は、冷却剤の種類によって異なり、濃度は使用中にも変化するため、随時、PAG.、PEG系では光屈折計を用い、PVA系では粘度計を用いて測定管理する必要がある。管理基準は、予め新液での濃度を元に定めておき、過不足があれば溶質または水を補給して調整する。
焼入冷却剤は、主に噴射冷却して使用され、その物理的効果によって、オーステナイト域からの冷却過程での蒸気膜沸騰段階が短時間かつ均一に完了し、核沸騰段階に速やかに移行する。そのため冷却剤の種類と必要な硬化仕様によって、冷却ジャケットの噴射孔の大きさや数、噴射圧力や流量を設定する必要がある。なお、PAG系とPEG系はPVA系に比べて被膜強度が少し低いので、比較的低圧力で多めの流量が適当である。
また、高分子系の焼入冷却剤では、化学劣化や熱劣化を起こす場合がある。化学劣化に対してては、たとえば、前加工時の金属油剤(切削油、潤滑材等)が混入しないよう油分分離や液吸込口を液槽下部に設け、浮上油の影響を避ける等の対策が必要である。また、熱劣化(焼入加熱の高温で熱分解、低分分子化される)については、屈折率での変化が小さいにもかかわらず、粘度や冷却速度が大きく変わることがあるので、処理量などから経時変化を想定し、定期的に冷却速度を実測したり、屈折率と粘度測定を組み合わせて管理することが必要である。