欠陥と対策 1(鉄鋼材料の欠陥)

鉄鋼材料は溶鋼中に含まれているガスや不純物などにより、また、造塊中にその条件などにより種々の欠陥を生じる。さらにその後の各種の加工や工程中でも、欠陥の発生する場合もある。それらの欠陥の概要について述べる。

6.4.1 マクロ組織

鋼材の内部性状や内部欠陥などを調べる方法としてマクロ組織試験がある。これは鋼材の断面を塩酸、塩化アンモニウム、硝酸アルコール、硫酸などにより腐食したのち、目視にて観察するものである。その一例を図6.4.1に示す。

インゴットパターン:鋼の凝固過程における結晶状態の変化又は成分の偏りのため、輪郭状に腐食の濃度差が現れたもの。
パイプ:鋼の凝固収縮による一次又は二次パイプが完全に圧着されず、中心部にその跡をとどめたもの。
もめ割れ:不適当な鍛造又は圧延作業によって、中心部に生じた割れ。
気泡:ブローホール又はピンホールが完全に圧着されず、その跡をとどめたもの。
マクロ組織の用語には、このほか樹枝状結晶、中心部偏析、多孔質、介在物、毛割れ、周辺きず、などがある。

6.4.2 非金属介在物

溶鋼中に生成する酸化物、硫化物、ケイ酸塩、耐火物、鉱滓(スラグ)などが鋼材の中に介在しているものを言う。
介在物は古代の鉄には大量に存在したが、機械等の疲れ強さに大きく影響することがわかってきたので、現代ではとくに重要視されている。
製鋼メーカーでは日々少量化に努力しており、その成果は目覚ましいものがある。
非金属介在物のJISは2003年に大きく変更されたので、それ以前の表現とかなり異なってしまった。現在でも旧規格の文書が多く出回っているので念のため旧規格についても概略を述べ、その後、現規格について説明する。

1)旧規格

JIS旧規格ではA系介在物、B系介在物、C系介在物の3種類に分けられていた。

A系介在物:加工によって粘性変形したもの(硫化物、 ケイ酸塩など)。さらに細分して硫化物をA1系介在物、ケイ酸塩をA2系介在物とする場合もあった。

B系介在物:加工方向に集団をなして不連続的に粒状の介在物が並んだもので主としてアルミナがこれに該当する。Nb,Ti,Zrを含む鋼では炭窒化物系介在物もこの系に分類していた。酸化物系をB1系介在物、炭窒化物系をB2系介在物とする場合もあった。

C系介在物:粘性変形をしないで不規則に分散するもの(粒状酸化物など)。Nb,Ti,Zrを含む鋼ではその炭窒化物もこの系の介在物となることがあった。この場合酸化物系をC1系、炭素窒素化系をC2系とする場合もあった。

2)新規格(G0555:2003)

ISO4967(1998)を元に2003年に改定されたが、日本独自の規定も追加されている。
この規格の分類方法は5種類になっている。JISによれば「この方法は観察視野とこの規格で定義される標準図と比較すること、及び介在物のそれぞれの系を個々に考察することから構成する。画像処理の場合には、各視野は付属書D(省略)に示す関係に従い格付けする」となっている。5種類は下記のように説明されている。

グループA(硫化物系)
一般的に端が丸く、高延伸性で、アスペクト比(長さ/厚さ)が広い範囲をとる灰色の個別の粒子。

グループB(アルミナ系)
多数の変形しないで、角があり、低アスペクト比(一般的に3未満)をとる黒か青みがかった変形方向に整列した(3以上の)粒子群。

グループC(シリケート系)
一般的に端が鋭く、高延伸性で、アスペクト比は広い範囲(一般的に3以上)をとり、黒か濃い灰色の個別の粒子。

グループD(粒状酸化物系)
変形しないで、角張っていりか又は円形の低アスペクト比(一般的に3未満)をとる黒又は青みがかったランダムに分布する粒子。

グループDS(個別粒状介在物系)
円形又は円形に近く、直径が13um以上の単独の粒子。

以上の解説によれば、従来のA系の酸化物とシリケートを完全に分類したこと、アスペクト比(長さ/厚さ)なる概念を導入したこと、ならびに介在物の色を重要視していることなどが主な改善点である。
介在物の試験方法には試験方法Aと試験方法Bの2種類がある。
方法Aは「研磨された全被検面を試験し、介在物の各系に対し、薄いシリーズ、厚いシリーズごとに、最悪視野に相当する標準図横の指数番号を記入する。」となっており、方法Bは「研磨された全被検面を試験し、試験片の各視野と標準図とを比較する。
薄いシリーズ又は厚いシリーズごとに介在物の各系に対し、観察された視野に最も相当する標準図の指数番号(標準図の横に示している。)を記入する。」となっている。
介在物のJIS標準図の一例を図6.4.2に示す。

6.4.3 偏析

鋼型に鋳造したとき、接した面から内部へと凝固し始める。Fe-C系平衡状態図でわかるとおり、凝固温度区間がある場合は組織の不均一が生じる。これが鋳造偏析で鋳型に接する部分は純度が高く、、中心部は合金元素や不純物濃度が高くなる。
このような偏析をマクロ偏析というが、これには重力偏析もある。また、樹枝状晶の幹部は純度が高くなり、樹間や樹枝間の部分は純度が低くなるミクロ偏析がある。
ミクロ偏析はほとんど避けられないので圧延のままの鋼材は常に縞状組織がある。
製鋼メーカーでは種々の防止策や改善策を実施しているが、完全には防止できない。偏析がひどい場合は合金元素(C,P,S,Mn,Wなど)の濃度に差が生じ、変態温度のずれ、焼入れ性のずれ、焼入れ硬さのむら、異常変形、焼割れなどの原因となることがある。偏析の検査方法としては、マクロ、ミクロ組織検査、サルファプリント(Sの偏析)、フォスフォロプリント(Pの偏析)、化学分析などがある。

6.4.4 表面きず、地きず

鋼材の表面に発生するきずで、大きく分けると鋼塊の時に発生するきずと、圧延や鍛造などの熱間加工時に生じるきずとがある。冷間仕上げの板、棒、線材などでは加工時や保存時のきずのほか、梱包や運搬時などでも生じることがある。
地きずは、砂きずとも呼ばれ、製鋼中に十分に除去できなかった非金属介在物や耐火物などの異物やピンホール、ブローホールなどが原因で発生する。
軸受鋼ではとくにこれの少ない鋼材が求められている。

6.4.5 残留応力

機械加工、熱処理、矯正、溶接、あるいは外力を加えて加工するなど、種々の原因によって、鋼材の内部に応力が残留する。これを完全に防ぐことはできないが、残留応力が大きい場合は加工後の変形、熱処理変形、経年変形や、焼割れの原因になる。
応力除去焼なましを施して応力を除去することが望ましい。一般的には表面を圧縮応力にしておくことが望ましいが、たとえ表面が圧縮応力であっても表面に近い部分に引張応力のある場合は割れの原因になることがある。

※文末資料

図6.4.1 マクロ組織


 図6.4.2 非金属介在物の標準図(一部を抜粋) 

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